国民は、自ら憲法を犯す司法を裁け

東京地方裁判所に提出した被告国の答弁書
3 行政不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること
(1) 原告らの主張
 原告らは、日本政府が、本件空襲の被害事実を調査、解明し、被害者に救済措置を行う義務があり、それが可能であったにもかかわらず、何らの救済措置をとらず、自ら起こした戦争犯罪による戦争被害を放置し続けた不作為が違法である旨主張する。

(2) 原告らの主張が誤りである。
ア 国賠法1条1項の請求として特定を欠くこと
 
国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民等に損害を与えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(昭和60年最高裁判決、平成17年最高大法廷判決)。そして、具体的には、公務員の個々の国民に対する職務上の法的義務の有無及びその内容の確定と、その義務に係る義務違反の事実の有無によって、当該公務員の行為の違法判断がなされることになるのであるから、同条の責任を論ずるに当たっては、まず、加害公務員とその違法行為の特定が必要である。
 しかるに、原告らの主張では、加害公務員の特定がなされておらず、また、違法を論ずる前提となる公務員の法的義務についても、先行行為に基づく条理上の作為義務の主張にとどまり、具体的にいかなる公務員のいかなる不作為が原告らとの関係で職務上の義務違反となり、国賠法上の違法行為に該当すると主張するものか判然としない。
 したがって、原告らの主張は、国賠法1条1項の請求として特定を欠くものといわざるを得ず、主張自体失当である。

 原告らの主張する責務は政治上・道義上の一般的な責務にとどまること
  本件では、不作為の違法が問われる余地もない。
  国賠法上、不作為の違法が問題となる類型には、論者によって種々の類型が指摘されているが、その中で、古崎慶長「国家賠償法の理論」78ページ以下は、公務員の職務権限との関連において、作為義務を3つに類型化し、次のように論じている。
 すなわち、「第一類型は、公務員の作為義務が、法令の明文をもって規定されているか、法令の解釈によって一義的にきまる場合である。(中略)この類型の問題は、作為義務の確定にあるのではなく、そのような作為義務の懈怠が、どのような状態のとき違法として非難されるかにある。第二類型は、法令によって公務員に権限が与えられてはいるが、その権限不行使がどのような状態のとき違法として非難されるかにある。第三類型は、公務員の作為権限が、法令によって具体的に規定されていない場合である。この類型の問題は、法令によって具体的に規定されていなくても、なお公務員に作為義務の生じる場合があるのかということである。」(同書79ページ)、「第三類型の場合は、原則的には、公務員の不作為に対し、政治責任を負うにとどまると考える。(中略)したがって、政治責任は、あくまでも政治責任であって、国民は、選挙や言論を通じて国政担当者の責任を問いうるにすぎない。政治責任が、法律上の責任―公務員の故意・過失―に転化することはありあない。」(同書102ページ、なお、最高裁判所判例解説民事編昭和59年度97ページ参照)。
 本件において、行政府に原告らが主張するような、空襲の事実調査や原告らに対する救済措置を行うべき作為義務を課するような法の明文規定はなく、また法令の解釈によって一義的に決まる場合ではないのみならず、公務員の作為権限が法令によって一義的に決まる場合ではないのみならず、公務員の作為権限が法令によって具体的に規定されていない場合であるから、上記の第3類型に該当すると考えるほかない。
 したがって、原告らが主張するような責務は、政治上・道義上の一般的な責務であって、法的な作為義務として評価されるべきものではない(日本政府が占領軍将兵の不法行為を未然に防止するための適切な措置を採らなかった違法が主張された事案について東京高裁昭和34年4月8日判決・下級民集10巻4号712ページ)、日本政府が韓国の竹島侵略を排除するための適切な措置を採らなかった違法が主張された事案について東京地裁昭和36年11月9日判決・行歳例集11号2252ページ)。
 したがって、そもそも本件では、国賠法上の責任の前提となる法的作為義務が生じるものとは考えられないというべきであって、この点に関する原告らの請求は失当である。

目次の第4-3を検討します

 3 行政不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること

 訟務局の答弁書は、憲法第17条1項に基づく国賠法を適用を否定するために、の終りで「原告の主張は、具体的にいかなる公務員のいかなる不作為が原告らとの関係で職務上の義務違反となり、国賠法上の違法行為に該当すると主張するものか判然としない、ので主張自体失当である。」という。
 また、 の終りに、
「空襲の事実調査や原告らに対する救済措置を行うべき作為義務を課するような法の明文規定はなく、また法令の解釈によって一義的に決まる場合ではないのみならず、公務員の作為権限が法令によって一義的に決まる場合ではないのみならず、公務員の作為権限が法令によって具体的に規定されていない場合であるから、上記の第3類型に該当すると考えるほかない。」だから国賠法上の責任の前提となる法的作為義務が生じるものとは考えられない。と書いている。それは違う。

 ところが、第3類型とは
 国家公務員法第一章第二条3 によれば一般職に対する特別職のこと。代表的な役職としては総理大臣や国務大臣・人事官及び検査官・内閣総理大臣秘書官・裁判官・裁判所職員・国会職員・防衛省の職員など
    (国会議員も国会職員に含まれるとされる

 第3類型の国会議員は特別職のことで、公務員であることに変わりはない。訟務局の答弁書は大きな曲解をつくっている。
  国会は立法府であって、第3類型である国会議員のもっとも重要な仕事は、「法律案の提出・審議・法律の制定」です。
 しかし答弁書は、改正憲法と下級法に、戦争被害者を救済・援護することを指示する一義的に明瞭な法文がないとかわし、憲法第13条などの主旨を無視、空襲被害者らが求める救済立法を講ずる措置をせず放置し、結果として被害者の悲劇と戦後の労苦という大きな心的・経済的損失をつみ重ねてきた事実は、議員等の個人は特定せず、全体として国会が立法不作為の責を負うことになる。この責は第17条を通して、国が、国家賠償法に委ねられる。これが、憲法第17条と国家賠償法が設けられた意義である。

国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違に他損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 総務省ホームページで、自分らの職場「訟務制度の創設」において、「戦後,日本国憲法の施行に伴い,国家賠償法(昭和22年法律第125号)が制定され,従来,国の権力行為については,国の公務員が職務上違法に損害を与えた場合でも国は責任を負わない (いわゆる国家無答責)とされていましたが,このような行為についても,損害賠償の請求が可能となりました。」と自ら書いている。

 法務省訟務局職員の憲法や国賠法が、憲法解釈を単純に間違えているということはあり得ない、何かの事由が敢えてこういう法違反
をさせているに違いない。

 それは、いったい何だろうか?

次は
原告らの損害は戦争損害であり、憲法の枠外の損害であって憲法違法と評価される余地はないこと
     国民は、自ら憲法を犯す司法を裁け